新卒エンジニア採用における社内の巻き込み
はじめに
サマーインターンの母集団形成が行われる季節になりました。従来の採用では「採用は人事の仕事」「事業部側が関わるのは面接のみ」という企業が多く見られました。デジタル人材が売り手市場となった2010年代中盤から人事、事業部、経営が一丸となって実施する採用が始まっています。今回は2023年現在の各社の様相を踏まえ、お話をしていきます。
目次[非表示]
- 1.はじめに
- 2.中途採用との違い
- 3.社内を巻き込む際の注意点
- 3.1.選択と集中
- 3.2.何年も同じ人を採用活動に指名し続けない
- 3.3.「就活の軸」を削り出す役割は人事採用担当者
- 3.4.巻き込んだ人についてのフォローと評価
中途採用との違い
2022年11月以降、外資ITやメガベンチャーを中心に中途採用が失速しました。全く採用しないわけではありませんが、それまであったヘッドカウント重視の採用から欠員補充の色合いが強くなっています。
同時多発的に「リファレンスチェックはどうしていますか?」「スキルテストはどうしていますか?」「適性検査はどうしていますか?」というご質問も頂くようになりました。
人材紹介フィーひとつ取ってみても、中途採用では40%が下限、50%が平均、コンサルでは50-70%というような相場が形成されています。
外資ITや自社サービスを中心とした景気の後退もありますが、高い採用フィーが発生する中途採用において失敗してしまうと収支に多大なインパクトが起きてしまうため、採用失敗に対して慎重になっていると言えます。
また、工数も重要視する企業が散見されます。以前はカジュアル面談からCTO、VPoE、EM、エンジニアが登場し、グリップしていくやりかたが採用に強いベンチャーを中心に起きていました。
しかし、2022年11月スカウト返信率が低下するようになると「内定承諾可能性が低い候補者に対して時間を割くよりも業務をしよう」という風潮が起きるようになり、同時期に拡大が見られるHRBPや、エンジニア出身の人事担当者であるジンジニアに再度委譲するような形をとっている組織が見られます。
では、新卒はいかがでしょうか。2019年までの焼き肉、寿司、キャバクラで囲い込むバブルさを感じる派手な採用活動こそコロナ禍をきっかけに落ち着きましたが、よほど財政が厳しかったりレイオフしていない限りは採用を継続している傾向にあります。
近年ではサマーインターンより早期のスプリングインターンを開始している企業も確認されています。また、経団連準拠で就活解禁を守っているような日系大手企業であっても寄附講座やゲスト授業などを引き受けつつ認知を広めていく動きがあります。
大手コンサルファームでは新卒や第二新卒(ただし21新卒、22新卒に限る)を採用し、社内で育成する方向に振り切り始めている傾向があります。
ポテンシャル採用については国内ベンチャーでも見られる動きです。
門戸が狭まっている中途採用に対し、育成とセットで定着活躍を見込んだ採用が企画される新卒は別腹と言えます。
カジュアル面談や、選考過程での意向上げのために現場のエンジニアに同席して貰う必要があります。依頼する際のポイントには2点あります。
1点目は年齢が就活生に比較的近いことです。
自社で新卒採用をしてこなかった場合、年の差が新卒に近い人選をすることをお勧めします。自社に入社を決めた理由が生々しく響くだけでなく、候補者にとって成長イメージにも繋がりやすくなります。
2点目は採用ペルソナに近い方です。
面接に関わる人材は会社の顔となり得ます。特にリモート採用なども併用されている現在は面接に関わる社員一人当たりの印象がそのまま会社の雰囲気とイコールになるため、誰でもよいと言うわけではありません。
選定された人材には面接官教育を実施し、候補者と接触する上での注意事項をインプットしましょう。特に差別に繋がるような質問は年々シビアになるため、入念に実施しましょう。
社内を巻き込む際の注意点
人事採用担当は注力すればするほど営業職のような評価に近づきます。
気持ちよく意向上げができる人材であれば頼りたくなりますし、何年も依頼したくなる傾向にあります。
しかし、ここで巻き込むのはあくまでもエンジニアです。特に採用に注力しており、面談・面接回数が非常に多い組織であればいくつか注意点が必要です。
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選択と集中
人事以外の人材は採用が本業ではありません。エンジニアであれば実装をし、事業を前に進めるのが本懐です。
よく見るパターンとして依頼先のエンジニアが頼みやすく、面談や面接が任意の人に集中してしまった結果、本人のモチベーションが下がってしまい退職リスクに繋がったということがありました。
予め採用活動に同席が可能な時間について本人や上長と合意しておくことが必要です。
また、リリース前はピリピリするため別の人をアサインしたり、障害対応のような不測の事態の際には代わりの人を立てたり、日程変更をするなど事業の状況を踏まえた対応を取るようにしましょう。
何年も同じ人を採用活動に指名し続けない
いくら素晴らしい面接官と言えども、特に新卒採用において何年も同じ若手を採用活動に巻き込み続けるのはお勧めできません。
「素晴らしい即戦力の人材を口説いて入社していただく」という中途入社と違い、就活では学生と就活生という明確な立場の差が存在します。
そのため、何年も新卒採用に関わり続けると残念なことに天狗になってしまう社員が現れてしまいます。これは人事採用担当者も同じです。
また、面談や面接の過程で「就活の過程で他社ではなく自社に決めた理由」を年齢や境遇が近い若手に語ってもらうことは非常に効果が高いものの、就活から年数が経ってしまうと昔話になってしまうため説得力が薄らいでいきます。
中途も含めて採用に関わりたい人材や、エンジニアリングマネージャー志望であれば別ですが、通常であれば2-3年が適正なのではないかと個人的に考えています。
「就活の軸」を削り出す役割は人事採用担当者
人事採用担当者と、採用に関わるエンジニアの間で役割の棲み分けを決めておく必要があります。
特に、新卒では多くの企業で「就活の軸」を重要視します。特にサービス共感やMVV共感を求める企業では、過去の体験を交えながら「なぜ弊社なのか」を最終面接までに求めていく傾向が強くあります。
しかし、就活生にしてみても様々な企業から声掛けがあるため、就活の軸自体が色々な言葉によって揺らいでしまいます。
そこで就活の軸を出すために何度も面談を繰り返す企業がベンチャーを中心に存在します。
一人あたり内定を出す・出さないに関わらず5時間程度かけることも少なくなく、この業務は基本的に人事側で実施することが事業への支障を考えると望ましいでしょう。
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巻き込んだ人についてのフォローと評価
採用に関わって貰った人たちについてのフォローも必要です。業務の手を止めるという影響を被って協力してくれていることに加え、新卒採用では土日に採用イベントがあることが少なくありません。
振替休日などの利用がしやすい範囲での依頼を意識しましょう。振替休日を割増買い取りをしている企業もありますが、小銭を稼ぎたいあまり社員が休日を潰してしまい、結果として疲れて辞めてしまう人たちを複数見たことがあり、お勧めはできません。
また、評価に繋げられるように事業部責任者と合意することも採用への協力を前向きにする上でお勧めしています。
ただし、採用が本業ではないため、採用目標人数を設定するのは良くありません。「面接の場で自社の説明ができる」「自社の訴求ができるようになる」などの行動ベースで評価するのが良い落し所であると考えています。